英雄相容れず。大村益次郎と西郷隆盛
花神
長州藩出身の軍神・大村益次郎をテーマにした3巻からなる小説です。
この小説を読もうと思ったきっかけは、みなもの太郎の『風雲児たち・幕末編』に登場する大村益次郎(村田蔵六)があまりに興味深い人物だったからです。
合理的、実務的過ぎて、才能にあふれながら、人とうまくコミュニケーションが取れない様がギャグを交えつつ、面白く描かれています。
大村益次郎とは
幕末を彩る風雲児の間違く一人なのですが、人間性が質素過ぎてなかなかイメージの無い人です。実際、遊びという様なものはほとんどやらず、豆腐2丁を食べながら、酒を飲むのが楽しみだったそう。
そんな素朴な人間の才能を見抜き、長州藩に引き入れ、出世させた桂小五郎は大したものです。
大村益次郎の経歴は、長州藩の鋳銭司村(ずぜんじ)の町医者(要は庶民)出身で、医学を学ぶために洋学を始めたことで、彼の人生は町医者では終わらくなるのです。
長州藩士になる前は村田蔵六と名乗っており、大阪の適塾で緒方洪庵の下で蘭学を学び、その後は翻訳のスキルを変われ、幕府の洋書翻訳などの職にも付きます。
洋書により最先端の軍事を学んだ蔵六は桂小五郎に誘われ、長州藩に支えることになり、後長州藩の軍事責任者となり、第二次長州征伐で幕軍を退けます。
そのまま、新政府軍の軍事を司り、戊辰戦争に当たり、反革命軍を鎮圧し、維新を完成させます。
大村益次郎を大村益次郎足らしめているのは、その性格で、徹底的な合理主義者でした。この合理性が彼が軍人として、戦略を構築するのに役だったのでしょう。大村益次郎は戦争に負けることなく、人生を終えます。
大村益次郎と西郷隆盛
『花神』の中で印象的なのは、大村益次郎を西郷隆盛のことをずっとただのアホだと思い、放っておいたこと。さらに、維新後は、必ず西郷は反乱を起こすであろうと、その準備を周到にしておいた点です。
西郷は当時、維新の功労者として圧倒的なカリスマ性を誇っていたからです。
大村益次郎が西郷を評価しなかったのは、西郷が「義」で動き、人の「情」を常に観ていた人間だからでしょう。
大村益次郎の様な「知」で持って合理的に動く人間には、情という人間的なものは空虚なもので、透明で軽いものと認識されます。
「知・情・意」の割合が異なると、英雄相容れないものです。
英雄になるほど、飛び抜けた知や情や意思を持っているものなので、なおさら理解しあえないものになるのでしょう。